2年連続の5位に沈んだヤクルトにとって今季最も明るい話題といえば、奥川恭伸投手(23)の復活劇だろう。6月14日のオリックス戦(京セラD)では5回1失点で980日ぶりの白星を挙げ、ヒーローインタビューで号泣する姿に胸を打たれた人も多かったはず。ただ、本人の満足感はそれほど大きくなかった。理由は故郷を思う強い使命感があったからだ。
シーズン最終盤となった10月。腰痛が癒えて1軍の舞台に戻ってきた際に今季の振り返りをしてもらうと「今年は石川県の震災とかがあって、キャンプの時から『しっかり活躍して元気を届けたい』と言っていたので、それができなかったことが申し訳なかった」との反省の言葉が口をついた。
「1勝しただけでも十分、地元の人たちは喜んでくれていると思うよ」と語りかけたが、奥川は「約束を果たせなかったので…」と首を横に振った。まるで“謝罪会見”のような声のトーンだったことが忘れられない。
正月に起きた石川・能登半島地震では、かほく市に帰省中だった自身も震度5の揺れに襲われ、家族と高台に避難した。今も復旧が進んでおらず様変わりした故郷に対して自分ができることは何か。23歳は開幕前に「特別な1年」と語り、「ちょっとでも石川県にいい話題を届けられるように頑張りたい」との思いを胸にシーズンに臨むも、その決意が空回りしたのか、キャンプ中に腰痛で離脱し開幕は2軍スタート。8月には再び腰痛で離脱するなど1年を通した活躍はできなかった。7登板のうち6度の先発で3勝2敗、防御率2.76。目指していた「20登板」から、かけ離れていた数字にやるせなさが募っていたのだろう。
エース級と対戦し、9勝を挙げた21年のような輝きを来季こそ。自他ともに「完全復活」といえるシーズンを送り、一度は守れなかった「約束」を果たす。(ヤクルト担当・長井 毅)