「ハリウッドの制作側だったFXはリスクを負った」 真田広之氏「SHOGUN」がゴールデングローブで快挙の意義(東洋経済オンライン) – Yahoo!ニュース

(写真:REX/アフロ)

「ハン・ソロが僕たちを見ている」 テレビドラマシリーズ「SHOGUN(将軍)」の共同プロデューサー、ジャスティン・マークス氏(45)が、スター・ウォーズのスター、ハリソン・フォード氏(82)の方を見て少し緊張した面持ちでこう言った。 SHOGUNは、アメリカで優れた映画・テレビ作品に贈られるゴールデングローブ賞の授賞式で5日(現地時間)、テレビドラマ部門で作品賞など最多の4冠を獲得。 マークス氏が受賞スピーチを行った時のことだ。フォード氏もテレビ部門の作品に出演しており、比較的若いSHOGUNの制作チームが受賞の驚きと戸惑いを隠せなかったシーンだ。

■受賞スピーチを書いたメモを破り捨てる姿 同時に、主演の真田広之氏(64)が、テレビドラマ部門の主演男優賞、浅野忠信氏(51)がハリソン・フォード氏や複数回ノミネートされているスターらを抑えて、初ノミネートでテレビ部門の助演男優賞に選ばれた。 ともに、日本人では初の受賞。アンナ・サワイさん(32)が同部門主演女優賞に選ばれ、日本人として、1981年の島田陽子(「将軍 SHOGUN」)以来44年ぶりの快挙を果たした。

受賞者としてサワイさんの名が呼ばれた際、受賞を期待し、授賞式のために減量までしたベテラン女優、キャシー・ベイツさん(76、「マットロック」主演)が、受賞スピーチを書いていたと思われるメモを破り捨てる姿がカメラに映った。 アメリカメディアの見出しは、「SHOGUNが賞を総なめにした」(サロン)、「SHOGUNとハックス(ベストコメディ部門)がテレビの栄誉を獲得」(ロイター通信)と、関係者を驚かせたことがわかる。「Sanada」「Sawai」といった日本人の名前がこれほど見出しになったことも過去にはないだろう。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は翌6日、浅野氏の受賞スピーチを「最も誠実なスピーチ」に選んだ。 「おそらくみなさん、僕を知らないでしょう。日本から来た俳優で、名前はタダノブ・アサノ。(中略)これは、とてもビッグなプレゼントです!」という短いスピーチだった。 ■真田氏のスピーチも好感を持たれた 真田氏の受賞スピーチも、「若い俳優へのアドバイスがあった」と好感を持たれ、ハリウッドのメディアで報道された。

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「私を認めてくれてありがとう。この素晴らしいジャーニーに付き合ってくれた全てのスタッフ、キャストにありがとう。世界の若い俳優やクリエーターの人たちは、自分自身を信じることを忘れず、絶対に諦めないで。グッドラック!」(真田氏) SHOGUNは昨年9月、アメリカの優れたテレビ番組に贈られるエミー賞でも、最高の栄誉であるドラマ部門作品賞など過去最多の18の賞を獲得し、話題をさらった。シーズン2、3の撮影も決まっている。

真田氏演じる吉井虎永に絡むイギリス人のサムライ、ジョン・ブラックソーンを演じたコズモ・ジャーヴィス氏は、授賞式ののちメディアから007シリーズの「次のジェームズ・ボンド役」の声がかかるのではないかとインタビューを受けた(インデペンデント)。SHOGUN出演が大きな踏み台になりそうな勢いだ。ジャーヴィス氏は戸惑いながらも「ボンド役探しの人たちに、最大の幸運を」と答えた。 ゴールデン・グローブ賞はエミー賞と異なり、テレビだけでなく映画も対象。特に、映画界で最大の栄誉であるアカデミー賞の結果に大きな影響を与える。

ゴールデン・グローブ賞は、75カ国のジャーナリスト300人が投票し、その顔ぶれは60%の人種的多様性を確保しているという。そこでSHOGUNがテレビ部門の主要部門4冠を制覇したのは、ハリウッドだけでなく世界中に評価されたことになる。また、ハリウッドが、日本を含めたアジアの歴史と俳優に注目するきっかけにもなった。 ■ハリウッドでの日本の描き方に疑問 作品は、ウォルト・ディズニー傘下のFXが作家ジェームズ・クラベルのベストセラー小説「将軍」を映像化。天下分け目の「関ヶ原の戦い」前夜を舞台に、戦国武将たちの謀略に焦点を当てた。

カナダで10カ月をかけて撮影され、ハリウッドのスケールの大きさに加えて、真田氏が時代劇の専門家を日本から招き、小物や衣装、所作などすべての細部にこだわった制作が話題となった。 真田氏は2003年、映画「ラスト サムライ」でハリウッドに進出。トム・クルーズらと共演した。大ヒット作だったが、所作や着付け、小物などハリウッドの日本の描き方がステレオタイプだと疑問を持った。 以来20年あまり、世界に影響を及ぼすハリウッド製であっても、日本の文化や精神を正確に伝える「本物の(authentic)サムライ作品」を目指していたという。

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SHOGUNに出演した俳優の竹嶋康成氏は、マーティン・スコセッシ監督が手がけた遠藤周作の小説が原作の「沈黙」にキリシタン役として出演。SHOGUNでも似たような配役だったが、両作品の違いについてこう語る。 「大物のスコセッシ監督の場合は、完璧に見せるというスタッフがいたものの、例えば日本の船を漕ぐシーンで、櫓が膝下までしか上がらないなどの間違いさえあった。修正をしたけれど、SHOGUNは最初からauthenticということにこだわった。見る人が見たら間違いが分かってしまうし、ちらとでも映るものでもいい加減にはしなかった」

■アメリカ人が「字幕作品」に慣れた背景 SHOGUNは昨年2月から10話で配信。真田氏は、ニューヨークでのプレミアでインタビューに応じ、こう語っていた。 「日本で学んできたこと、ラスト・サムライ以来、思ってきたことを全て注ぎ込んだ。異文化の映画を作るときは、本物を作らなければいけない。金儲けだけが目的ではない、全てが本物で、カメラの前にあるものはすべてが本質的なものでなければならない、という気持ちを込めた」

東京在住で、日本でのキャスティング・アソシエイトとして配役に当たったトニー・ペデシンさんは、同作品の特徴についてこう語る。 「ハリウッドの制作側だったFXは、リスクを負ったと思う。日本を舞台に7割が日本語で、壮大な戦いに臨む設定でありながら、最後は微妙な詩的な展開で終わるドラマが成功するとハリウッドでは誰が思うだろうか。でも作品は世界中の視聴者を魅了した」 ペデシンさんは、アメリカ人はかつて字幕に慣れていなかったが、Netflixなどストリーミングサービスで世界の作品を見るようになって字幕を読む習慣がついたことも人気につながったとみている。

津山 恵子 :ジャーナリスト

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