[コペンハーゲン 7日 ロイター] – 20日に政権に返り咲くトランプ次期米大統領が北大西洋条約機構(NATO)加盟国デンマークの自治領グリーンランドを米領土の一角に取り込みたいとの意欲を改めて表明している。1期目の2019年に初めて購入意向を表明し、デンマーク政府に提案したものの一蹴されていた。グリーンランド自治政府も拒絶した。
トランプ次期大統領は今回、前年末に続き年明け6日にも購入意向を表明。自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」で「信じられないほど素晴らしいところで、わが国の一部になれば(グリーンランドの)人々は多大な恩恵を受けるだろう」と書き込んだ。
7日には長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が個人的な訪問として現地入りし、その後にトランプ次期大統領は「これは実現しなければならないディール(取引)だ」と発言した。
◎トランプ氏は購入できるのか
グリーンランド自治政府のエーエデ首相は最近、独立に向けた動きを強めている。ただ、繰り返し強調するのがグリーンランドは売り物ではないし将来を決めるのは住民の判断に委ねられているという点だ。
同首相は7日、「(グリーンランドの住民ではない)デンマーク人や米国人らには意見を言う権利があるものの、われわれは病的な興奮状態に巻き込まれたり、外部からの圧力に惑わされたりして進路を逸らされるべきではない」と切って捨てた。
グリーンランドはかつてデンマークの植民地だった。1953年に正式な領土の一部となってデンマーク憲法の適用下にある。このため法的地位の変更には憲法改正が欠かせない。2009年には、住民投票を通じてデンマークからの独立を宣言する権利を含む広範な自治権が付与された。
米国政府は以前にも領土欲を示しており、東西冷戦期のトルーマン政権が戦略的資産として1億ドル相当の金塊で購入しようとしたが、当時のデンマーク政府は植民地だったグリーンランドの売却を拒否した。
◎グリーンランドが独立したら何が起きるか
仮にグリーンランドが独立した場合、米国と連携する選択肢もある。
グリーンランド住民の大多数は独立を望んでいるが、完全な独立が現実的だと考える人はほとんどいない。欧州連合(EU)の一員であるデンマークに経済面で依存しているためだ。
1月20日に政権に返り咲くトランプ次期米大統領が北大西洋条約機構(NATO)加盟国デンマークの自治領グリーンランドを米領土の一角に取り込みたいとの意欲を改めて表明している。写真は、個人的な訪問として現地入りした、長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏。7日、主要都市ヌークで撮影。 Emil Stach/Ritzau Scanpix提供写真(2025年 ロイター)
選択肢の1つは、太平洋島しょ国のマーシャル諸島やミクロネシア、パラオの地位に似た、いわゆる自由連合盟約(COFA)を米国と結ぶことだ。
デンマーク国際問題研究所の上級研究員でグリーンランド専門家ウルリク・プラム・ガド氏は「グリーンランドではデンマークからの独立が話題に上がっているが、支配者を新しくしたがっている人はいない」と話す。住民福祉が確保されない限り独立の是非を問う住民投票をしても賛成派は勝ちそうにないと見ている。
◎トランプ氏が関心を持つ理由
グリーンランドは米軍にとって戦略的重要性があり、弾道ミサイルの早期警戒システムを設置している。欧州から北米に至る弾道ミサイルの飛行ルートはグリーンランド上空を通過するのが最短になるためだ。
グリーンランド北西部のピツフィク空軍基地には米軍が常駐しているが、米国はグリーンランドでの軍事的な影響力を高める意向を示しており、グリーンランドやアイスランド、英国間の海域を監視するレーダーの設置を検討している。ロシア海軍の艦艇や原子力潜水艦には同海域が重要通航ルートになっているためだ。
ウルリク・プラム上級研究員によると、グリーンランドは地理的に北米大陸の一部であり、米国にとっては他の主要国が足場を築かないようにするのが極めて重要という。
また、グリーンランド主要都市ヌークはデンマークの首都コペンハーゲンよりも米東部ニューヨークに近い。鉱物や石油、天然ガスといった資源も豊富だが、石油と天然ガスの採掘は環境上の理由から禁止されており、鉱業開発は官僚主義と先住民の反対で行き詰まっている。
グリーンランド経済は漁業頼みで、予算の約半分はデンマーク政府の補助金に依存している。
◎デンマーク政府の方針
デンマーク政府は過去にグリーンランドで歴史的に深刻な問題を引き起こしていたことが暴露され対立が先鋭化した。その後に改めて出てきたのがトランプ氏の再度の購入意欲表明だ。
デンマークのフレデリクセン首相は19年、トランプ氏が大統領1期目に購入を言い出した際は「ばかげている」と非難した。
フレデリクセン氏は今週7日にトランプ氏が再度意欲を示した際に感想を求められ「米国と非常に緊密に協力する必要がある」と述べつつ、「グリーンランド住民を国民として尊重するよう、皆にお願いしたい。グリーンランドの未来を決定し、方向付けられるのはグリーンランドだけだ」と付け加えた。
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Based in Copenhagen, Jacob oversees reporting from Denmark, Iceland, Greenland and the Faroe Islands. He specializes in security and geopolitics in the Arctic and Baltic Sea regions, as well as large corporates such as obesity drug maker Novo Nordisk, brewer Carlsberg and shipping group Maersk. Before moving to Copenhagen in 2016, Jacob spent seven years in Moscow covering Russia’s oil and gas industry for Dow Jones Newswires and The Wall Street Journal, followed by four years in Singapore covering energy markets for WSJ and Reuters.