中日で8年プレー…石垣雅海が現役ドラフトでロッテ移籍
12月中旬、最高気温が10度に届くかどうかの真冬のナゴヤ球場。屋内練習場で、ひとり黙々と体を動かす。中日でのプロ8年目を終えた石垣雅海内野手の視線は、まっすぐ未来だけを捉えていた。その数日前に開催された現役ドラフトで、ロッテへの移籍が決定。急に慌ただしくなった師走に、様々な思いが交錯する。
2024年シーズンは1軍9試合に出場にとどまり、スタメン起用はわずか1試合だった。将来のクリーンアップ候補として2016年のドラフト3位で酒田南高(山形)から入団。2018年のフレッシュオールスターゲームでは、衝撃的なバックスクリーン弾を放ってMVPを獲得するなど片鱗を見せた時期もあったが、殻を破りきれずに気づけば26歳となった。
いずれにしろ、2024年はプロ人生の分岐点だと思っていた。レギュラーシーズン終了後、戦力外に心を備えた。「全然あるなと思っていました。そこは覚悟していました」。自らの予想に反して球団からの呼び出しはなく、10月、11月が過ぎた。残るはトレードか、12月9日に行われる現役ドラフト。メディアの記事やプロ野球OBの意見でも、「中日が出すのは石垣」という予想を多々目にした。自分でも確信的な思いがどこかにあった。
当然、プロの世界に導いてくれた中日で1軍戦力になりたかった。期待をかけてくれた球団、ファンのことを思うと、チャンスを掴みきれなかった自らが不甲斐ない。しかし、戦力外が現実味を帯びてきたここ数年、環境の変化もきっかけになるのではと思うようになった。2023年に加入してきた同学年の細川成也外野手が現役ドラフトをきっかけにブレークした姿を直近に見ると、その思いはさらに強くなっていった。
現役ドラフト当日、自宅のベッドで寝ていた。「意味はちょっと違いますが、『果報は寝て待て』というか……」。起きていると、絶対にソワソワしてしまう。平常心でどっしり構えるためにも、あえて脱力した一日を過ごしていた。
中日で守備力は急成長「やればやるだけ本当に上手くなった」
ベッドのすぐ側に置いた携帯が鳴る。着信音に気づいた妻も駆けつけ、2人で顔を見合わせる。画面に表示された、知らぬ電話番号。疑いの余地はなかった。「来た来た来た!」。喜ぶでもなく、悲しむでもなく、純粋な驚きで夫婦で思わず絶叫した。球団関係者から「今からホテルに来られますか?」。すぐに着替え、名古屋市内の指定場所に向かった。
道中、移籍先について考えを巡らせた。11球団の補強ポイントを自分なりに考えた。結果はロッテ。佐々木朗希投手の米挑戦もあり、投手を指名すると思っていただけに予想外ではあったが、「迫力のある応援」と「ピンストライプかっこいいユニホーム」がすぐに思い浮かんだ。
年末年始は地元・山形での予定が詰まっているため、合間を見つけてマンション探しなどに奔走する。同時に、名古屋との別れの準備も進める。温かいファン、うまい名古屋めし。8年間で、得たものも多かった。「入団前から中日は練習量が多いイメージがあって、そのおかげで守備はやればやるだけ本当に上手くなった。練習量という部分はありがたかった」。投手と捕手以外、ほとんどのポジションも守った。
新天地でやるべきことはひとつ。「打たないといけない」。期待されて移籍することには変わりないが、何年も待ってもらえる立場でないのは変わらない。現役ドラフトで人生を変えた選手がいる反面、わずか1年でユニホームを脱がされる現実もある。
ラストチャンスに、全てを懸ける。「(細川は)移籍してきて、結果を残してすごいなと思っています。自分もそこを掴みにいきたい」。くすぶる現実を打ち破れるのは、自分のバット以外ない。
(木村竜也 / Tatsuya Kimura)