「これは落ちたら…大変なことになる」SASUKE現役最強“サスケくん”森本裕介(33歳)が明かす“主役の重圧”「最後、僕がひとりになっちゃって…」 photograph by Nanae Suzuki
TBSが誇る人気番組『SASUKE』。1997年の放送開始以来、いまでは160を超える国と地域で親しまれている世界的コンテンツだ。人気の高まりと比例して、出演するアスリートたちへの注目も年々、高まっている。現在そのSASUKEの顔をつとめるのが「サスケくん」こと33歳の森本裕介だ。過去2度の完全制覇を達成し、ゼッケン100番の大トリを務め続けるエースが語った「鋼鉄の魔城」への想いとは。《NumberWebインタビュー全2回の2回目/最初から読む》
いくつものセクションが組み合わされ、連動した動きが要求されるSASUKEだが、攻略する上で欠かせないと森本裕介が考えるのが「持久力」だ。
セットに挑んでいる最中の筋持久力はもちろん、3日間の収録でへばらない心身のスタミナも必要になる。
「あとは上半身の筋力。特にサードステージ以降、上半身は極限を求められるので限界まで鍛える必要がある。脚力や体幹もファーストやセカンドで試されるので必要ではありますけど、優先順位をつけるなら持久力と上半身ですね。そして、いくら身体能力があっても選択を一回でもミスるとおしまいなので、緻密さや負けず嫌いなメンタルもすごく大事になります」
背負い続ける「100番」ゼッケンの重み
日頃の練習で徹底的に肉体と連動性を鍛え上げ、「必ずいける」という自信を持って本番を迎える。荷物はチェックリストを作って一つも足りないものがないようにし、毎日同じホテルに泊まり、同じ食事を食べて準備する。ウォーミングアップは自分の出番から人数を逆算して、決まったタイミングで始める。
そうやって確固たる過程を積み上げていくことで揺るぎない状態でセットに挑める。最近は昔のような緊張をほとんど感じることなく、練習と同じような心理状態で臨めるようになったという。
ただし、いくら森本が個人的に万全の準備を整えたとしても、SASUKEがテレビ番組である以上、個人が背負う以上のプレッシャーというものも存在する。森本は第30回で初めて最終挑戦者のゼッケン(記念大会だったため3000番)をつけ、第33回大会以降は100番のゼッケンを背負い続けてきた。かつて“史上最強の漁師”と呼ばれた長野誠が背負ってきたその番号は、主役として番組を成り立たせる使命も帯びている。
「そのプレッシャーを感じることは多々あります」と森本は笑いながら言った。
よく覚えているのは、2018年に放送された第36回大会だ。この年、SASUKEはファイナルステージを大晦日に初めて生放送する予定になっていた。制作サイドは横浜の赤レンガ倉庫を押さえ、さまざまな許可取りもすべて済ませて大舞台の準備を整えていた。
大晦日の生放送を前に…実力者が次々と落下
事前に緑山スタジオで行われた収録では、サードステージに10人の挑戦者が残った。しかも森本以外にも漆原裕治やファイナル経験のある多田竜也ら実力者揃い。これで大晦日も盛り上がりそうだとスタッフが安堵したのも束の間、その実力者たちが次々と落下していく。
SASUKEでファイナル進出者がいないことはあるが、せっかくの大晦日生放送に誰も残っていないとなれば番組的には目も当てられない。すべての準備が水の泡だ。誰もクリアできないまま、いよいよ最後の森本を迎える。この時、現場のひりついた空気、緊迫したムードをひしひしと感じたという。
「これは僕が落ちたら大変なことになるんだろうなと感じていました。2、3人はファイナルに行くだろうみたいな空気が流れてたのに、結果僕が残り一人になって、明らかにスタッフさんたちが青ざめてましたから(笑)。でもそれを考えちゃうと絶対に硬くなるから切り替えました。あくまで自分の夢を叶えるためにやってるんだと」
ゼッケン100番は見事にサードステージをクリアし、番組を救った。
今年の夏に行われたSASUKEワールドカップでも同じような場面があった。森本のいるジャパン・レッドチームにサードステージでミスが相次ぎ、森本がステージ終盤まで残らなければファイナルに進めないという状況になった。
「あの時もスタッフさんであったり、選手の皆さんがだいぶ慌ただしくなってましたね」
この時も森本は自分の競技に集中することでプレッシャーをねじ伏せた。
心身ともに充実期にあるように見える森本だが、本人の実感は少し違う。30歳を超えて体の衰えを如実に感じるようになってきた。
「急激に、ぶわっと体が変わってきました。キープするのが大変です」
その戦いはまるでモグラ叩きのようだという。
「完全制覇のための能力にはいっぱい種類があって、その練習をしてないと能力が落ちてくるんですよ。じゃあそっちを練習しようかとなると、こっちの能力が下がってくる。そうやってモグラ叩きしながら、全部の能力を完全制覇できる水準に保たないといけない」
その衰えていくスピードが年々、急激になっている。以前ならウォーミングアップなしでクリフハンガーの練習などもできたが、今ではケガが怖くてとてもそんなことはできなくなった。単純な安全対策にも人一倍気を使う。他の練習メンバーが見過ごしがちなわずかなマットの隙間も必ず塞いで余計なケガのないように努めている。
「ケガをしたらやってきたことが全部台無しですからね。これから先、SASUKEのセットが易しくなることはない。右肩上がりで難しくなっていく。一方で自分は、自分に限らずアスリートは、必ずどこかで衰える時が来る。その怖さはもちろんあります」
ただ、そこで変化していくサスケくんの姿を見せるのもまたSASUKEというコンテンツの一部になるのだろう。
「SASUKEはスポーツではない」のか?
SASUKEを立ち上げ、現在も総合演出を務めるTBSの乾雅人は、あるインタビューの中で「SASUKEはスポーツ選手権ではない」「さまざまな職種の人が頑張るのを見せる番組。視聴者が応援したくなる人間性を重視している」と語っていた。
スポーツエンターテインメント番組という肩書きが示す通り、スポーツであり、エンターテインメントでもある。やり直しの許されない究極の一発勝負に臨もうとしているときに、仲間に並走して声を上げ、たくさんのカメラに一挙一動を追いかけられ、コメントを求められる。
森本は競技で100%力を出すことはもちろん、仲間を思って全力を出し切ってほしいと必死に応援するのは「SASUKEのいい文化」だと捉えている。
乾の言葉にも半分同意し、半分は異を唱える。
「SASUKEはスポーツだと思っています」
「SASUKEの選手の人間としての魅力を視聴者の方が感じる側面というのはすごく大事ですし、SASUKEの大きな一面。僕はそれにプラスしてSASUKEはスポーツだと思っています。これは絶対そうだと考えていて、他の競技に負けないぐらいの情熱と努力を積んで挑んでいる番組で、それがスポーツじゃないというのはあり得ない。絶対にSASUKEは立派なスポーツ。その両方あるからこそ感動できるんだと思います。人間性が見えて、かつその人が一生懸命普段から頑張ってる。2つが揃ってるからSASUKEはみんな感動ができる」
一見強そうには見えないソフトウェアエンジニアの森本が、誰よりも思い入れを持って、誰よりもたくましくモンスターコースを制圧していく。確かにギャップのあるそのさまこそがSASUKEの魅力をストレートに体現している。
とはいえ、SASUKEはテレビ番組だ。永遠に続くものではないだろう。もし、それだけ情熱を傾けた番組が終わってしまったらサスケくんはどうするのだろう。
そう問いかけると、森本は意外とあっけらかんと答えた。
「今まで番組に出させていただいて、目標を追ったり仲間を大切にしたり、たくさんのことを学ばせてもらいました。もし仮にSASUKEが一切なくなっても、間違いなくこの先の僕の人生は充実している。SASUKEのおかげで幸せな人生になると思います」
そこにあったのはSASUKEに人生をかけた男の、幸せな笑顔だった。
「SASUKE2024 第42回大会」
TBS系 12月25日(水)よる6時〜放送予定
https://www.tbs.co.jp/sasuke_rising/
文=雨宮圭吾
photograph by Nanae Suzuki