山田勝己は「今でも荷重を背負って山道に…」“黒虎のエース”山本良幸(32歳)が語るミスターSASUKEとの出会い 最初の言葉は「強いな!でも…」(Number Web)|dメニューニュース

山田勝己は「今でも荷重を背負って山道に…」“黒虎のエース”山本良幸(32歳)が語るミスターSASUKEとの出会い 最初の言葉は「強いな!でも…」 photograph by TBS

TBSが誇る人気番組『SASUKE』。1997年の放送開始以来、いまでは160を超える国と地域で親しまれている世界的コンテンツだ。人気の高まりと比例して、出演するアスリートたちへの注目も年々、高まっている。現在“ミスターSASUKE”こと山田勝己が率いる軍団「黒虎」のエースでもある32歳の山本良幸もそのひとり。何をやっても続かない「根性なし」だった男が、『SASUKE』の沼にハマったワケとは?《NumberWebインタビュー全2回の2回目/最初から読む》

SASUKEで勝負する。大学卒業を機にそう決めたものの、山本良幸は本戦参加に向けた高い倍率の選考を、なかなか勝ち抜くことができずにいた。決意の時からは、すでに5年近くが経っていた。

SNSなどはあまりやらない山本だったが、あまりに埒があかないため、当時すでにSASUKEでスター街道を邁進中だった“サスケ君”こと森本裕介について「どこで練習してんのかな?」と調べてみた。

すると、家から近い堺市新金岡にある工務店「ハウスクリニック浦嶋」で練習していることを知った。SASUKE界隈ではよく知られた練習拠点で、通称は「亀パ」。社長の浦嶋伸次もSASUKEファイターで、自らの練習のために店の隣を改築してセットを組み、いつしかそこにSASUKEファイターが集まるようになっていった。森本もそこに通っていた。

出場経験のない自分でも利用できるのか分からなかったが、山本は電話で浦嶋にコンタクトを取って練習に行かせてもらえることになった。亀パに行くと“ミスターSASUKE”こと山田勝己が率いる軍団「黒虎」のメンバーだった伊佐嘉矩らと知り合うことができた。

「当時、黒虎も成績が低迷してたんですよ。なんかチャンスがないかなって伊佐と話していて、ちょっと山田さんに挨拶に行ってみようということになったんです。そもそも黒虎って新しい人が入れるんかな?というのもあったけど、まずは山田さんに会ってみたかったですしね」

初対面の山田勝己からは「強いな!でも…」

亀パに通い始めてから約半年、2019年6月に山本は山田と初めて対面した。少年時代にその動きをまぶたに焼きつけたミスターSASUKEである。緊張してロクに話もできなかったが、山本の動きを見た山田からこう言われたのは覚えている。

「おお、強いな! でも出られへんで。黒虎の選考会もタイミングがあるし、俺のタイミングやからなあ」

山本は山田の下に毎週通った。黒虎はSASUKEに人生をかけた男たちの集団だ。真剣さ、思いの深さを示さなければいけない。本戦出場への道がまるで開けない状況にあって、まずは山田に認めてもらえなければ始まらないのだ。

しばらく通っても山田の言うことは変わらなかった。

「おお、頑張ってんなあ! 来年ぐらいに入団できたらええなあ。2年後、3年後になるかもわからんけど」

ただ、初対面から3カ月経つと、今度はこう言われた。

「選考会があるから顔出しいや。まあ出られへんけどな」

昔気質な山田なりの精一杯のラブコールだったのだろうか。いずれにしろ山本はこのチャンスを掴んだ。予選会で驚異的なパフォーマンスを見せ、伊佐とともに黒虎メンバー代表に選ばれた。27歳にして、ついにSASUKE初出場が決まった。本戦でも山本は初出場とは思えないパフォーマンスを発揮し、サードステージまで進出する活躍を見せた。

団長の山田からも「お前に懸けてよかった」

2022年には黒虎初の快挙となるファイナルステージ進出。この時、サードステージクリアを見届けた団長の山田は感極まった。山本に歩み寄って「ありがとう」と肩を抱き寄せた。

「団長、泣くのはまだ早いです」

「そら、嬉しいよ。嬉しいに決まっとうやん」

「お前に懸けてよかった」と男泣きする山田を見て「団長がいなかったらここまで頑張れなかったですし、ここまで強くなれたのは団長のおかげなんで」と山本も感謝した。

山田から「ミスター黒虎」とまで呼んでもらえるようになった山本だが、ミスターSASUKEの存在には、いまも「なぜSASUKEをやるのか」という原点を思い出させてもらっている。

「山田さんはね。ほんまに飾らない。テレビのままと言ったらいいのかな。こどもがそのままに大人になったような、すごいピュアなところがあるんです」

黒虎の定番練習メニューに坂道ダッシュがある。

黒虎の予選会でも坂道ダッシュは恒例種目。このメニューによってメンバーの体力が培われてきたのは間違いない。ただ、近年のSASUKEはもう少し専門的な技術が求められるパートもある。38回大会からは山田が現役に復帰したことで、山本はファーストステージの攻略法について団長に時おりアドバイスしているという。

「山田さん、ファーストステージはもう少しこういうイメトレしといた方がいいですよ」

「おお、わかった!」

そう力強く答えた後、山田は一目散に坂道に向かっていく。

「すごく頑固というか、これって決めている部分は絶対に譲らない。勢いと熱意。そのスタイルは絶対に崩さない。いまも荷重背負って坂道に行ってますからね。体力はもうあるんで『山田さん、必要なのはそこじゃないです!』と言っても絶対に聞かない(笑)。そこは本当に山田さんですね。山田さんなりのSASUKEへの思い入れがある。すごいSASUKE愛なんですよ」

頑固一徹、猪突猛進。そこはなんとなくイメージ通りだが、一方で周囲が驚くような進歩的な目線も持ち合わせているという。

「サードの新エリアが出た時、バーティカルリミット.BURSTの研究でも、エリアを見ただけで核心をついたことをいろいろ言われてたんです。そのへんの見る目はすごいし、さすがです。ほんまにSASUKE好きなんやなと思いますね」

そんな山田率いる黒虎のエースの座を確たるものにした今、山本は新たな挑戦に踏み出した。近代五種競技でのロサンゼルスオリンピック出場である。パリオリンピックでは自衛隊の佐藤大宗が日本勢初の銀メダルを獲得して注目された競技だ。

SASUKEがオリンピックに…「挑戦しない理由がない」

国際オリンピック委員会は23年10月の総会で、近代五種の馬術に代わってオブスタクルスポーツの採用を決めた。これは平たくいうと障害物競争のことで、SASUKEを起源に始まった新しいスポーツだ。28年のロサンゼルスオリンピックから、近代五種はこの種目を取り入れた新たな形に生まれ変わる。

『SASUKE』そして『オリンピック』と聞けば、SASUKEファイターの血も、アスリートの血も騒ぐというもの。

「SASUKEを起源とした障害物レースがオリンピックになった。これは挑戦しない理由はないかなと。学生時代に自分が叶えられなかった世界でどこまで渡り合えるのか。今からどこまでいけるかは未知数ですし、どこまで上げられるのかワクワクもあります」

10月に行われたオブスタクルスポーツの第1回日本選手権で山本は4位に食い込んだ。SASUKEファイターの中でも均整の取れた肉体とアスリート能力の高さは折り紙つき。オリンピック挑戦へ大きな可能性を感じさせる第一歩となった。

ただし、近代五種は障害物レースだけではない。フェンシング(エペ)、水泳(200m自由形)、レーザーラン(ラン600m×5本の合間に射撃を行う複合種目)も高いレベルでこなさなければならない。

「心肺機能を高めとかないとあかんわと思って、1月に800mとか1000mを短いレスト50秒で4本とか始めたんです。しばらく続けていたら2月に熱が下がらなくなりました(笑)」

4月のSASUKEワールドカップに向けて小休止し、夏になると今度は水泳の練習も始めた。9月末からはまたSASUKE一本に切り替えて準備を進めた。教員免許を取得した山本は現在、大阪府立堺支援学校に保健体育教諭として勤務している。仕事もある中でのSASUKEと近代五種の両立だ。

「スケジュール的にはかなりえげつないんで、毎日泣きそうですね。これまでの休養日に近代五種の練習が入ってくる。支えてもらっている妻には本当に感謝です。納得してもらうための交渉が大変でしたけどね」

家では午後9時を門限と定め、しっかり分担を決めて家事もこなす。すべてに全力で取り組む日々だ。

「僕もすごく心配だったけど、今はよくできていると思います。妻と過ごす時間が短くなっても、その中でいろんな話を今まで以上に濃くできているかなと」

「どうして頑張れてるんだろう」…その疑問の答えは?

そう語る山本に根性なしだった昔の面影はもうない。

「自分がスポーツを始める前にまずハマってたのがSASUKEなんですよね。あこがれもあって、夢でもあって。そこに実際に出られるとは思ってなかったし、もう出られへんやろと思ったのが、いまこうやって出場できている。練習はしんどいことばかりというか、全部しんどいです。楽しいことなんかほとんどないけど、どうして頑張れてるんだろう。夢だから、ですかね」

スポーツで何度も挫折を味わってきた男は、SASUKEに一途に取り組むことで再び人生にともしびを得ることができた。

「SASUKE2024 第42回大会」

TBS系 12月25日(水)よる6時〜放送予定

https://www.tbs.co.jp/sasuke_rising/

文=雨宮圭吾

photograph by TBS

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