銀行や証券会社などの金融業界で、従業員の不祥事が相次いでいます。
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40代の女性行員による貸金庫の十数億円分の金品の窃盗、証券会社の社員による強盗殺人未遂事件などが起きています。
背景に何があるのでしょうか。
■元行員が『脅迫』 貸金庫から巨額窃盗の行員も
三菱UFJ銀行の元行員による不祥事です。
管理職だった元行員の松田忠士被告が、2024年3月から5月までの間に、取引会社の社長に対し、くり返し辞任を迫るメッセージを送ったとして、強要未遂罪で起訴されました。
六代目山口組組長と同じ、『司忍』の名前を使った『脅迫メッセージ』もあったということです。
松田被告は、取引会社の株を購入しましたが、株価が下落したことに不満を持ち、取引会社の問い合わせフォームに、
「死ねないなら退任しなよ」
「反社勢力を彷彿させる取り立て行為をさせる」
などのメッセージを送っていました。
この問題を受けて、三菱UFJ銀行は、
『元行員が起訴されたことは大変遺憾です。弊行は本事案を厳粛に受け止め、行員の倫理観維持・向上に努めて参ります』とコメントしています。
三菱UFJ銀行では他にも、40代の管理職だった元行員が、2020年4月から約4年半に渡り、練馬支店と玉川支店の貸金庫から窃盗をしていました。
被害者は約60人、被害額は時価十数億円相当としていますが、さらに数十人の顧客から、被害の可能性の申し出が出ているということです。
貸金庫を開くには、銀行が保有するカギと、顧客が持つカギの2つが必要ですが、元行員の女性は、銀行が保管している顧客のカギのスペアキーを不正に利用して、貸金庫を開けたということです。
三菱UFJ銀行の半沢頭取は、
「管理体制やチェック手続きに精通した個人の犯行だが、拠点での動態管理や本部のチェック手続きに一部不十分な点があった」と謝罪しています。
今回の三菱UFJ銀行の対応について、元メガバンク支店長の菅井敏之さんです。
「窃盗問題の発覚から謝罪会見まで約1カ月半を要しており、説明の遅さが感じられる。これにより、全金融機関の信用懸念を招いたことは考えてほしい」
■証券会社 元社員は強盗殺人未遂などで起訴
他の金融業界では強盗殺人未遂事件も起きました。
2024年7月、野村証券の営業職だった元社員の梶原優星被告が、広島市内で顧客宅から約1787万円を奪った上放火したとして、強盗殺人未遂と現住建造物等放火の罪で起訴されました。
捜査関係者などによると、梶原被告は、事件の数日前に顧客の80代夫婦へ、食事会の開催を持ち掛けました。事件当日、顧客宅で3人で食事をしていた際に隙を見て、夫婦の食事に睡眠作用のある薬物を混入させ、昏睡状態に陥らせたということです。
その後現金を奪い、犯行を隠滅するため放火したとみられています。
さらに、放火前に顧客宅に複数回侵入し、約800万円を盗んだ疑いで、12月9日に追送検されました。
事件当時、梶原被告は、個人的な投資により多額の損失を抱えていて、穴埋めと更なる投資で利益を得ようと考え、犯行に及んだと見られています。
事件を受けて、野村証券の奥田社長は、
「信頼をもってお取引いただくのが、金融機関のあるべき姿。その信頼感にご不安を与えてしまったことは、深くおわび申し上げる」と謝罪しました。
野村証券は今後の対応策として、●業務のモニタリング強化、●顧客宅訪問の監督強化、●一定期間社員に休暇を取得させ、その間に不正調査をする制度の導入、
などを発表しています。
■インサイダー取引で『裁判官』や『東証元職員』刑事告発
金融業界でのインサイダー取引も相次いでいます。
11月1日、三井住友信託銀行は、管理職だった元社員が、業務で入手した情報を基に、株を売買するインサイダー取引を複数回した疑いがあると発表しました。
他にも、金融庁では、出向中の佐藤壮一郎裁判官が、職務を通じて知った未公開情報を基にインサイダー取引を行った疑いで、12月23日刑事告発されました。
東京証券取引所では、細道慶斗元職員が、職務を通じて知った未公開情報を父親に伝え、インサイダー取引に関与した疑いで、12月23日刑事告発されています。
インサイダー取引について、菅井さんによると、
「金融関係者は、会社の内部情報や財務情報を先に知ることが出来る。ただ、それを個人の利益のために利用すると市場がゆがみ、公正な取引が成り立たなくなるため、厳しく規制されている」ということです。
■相次ぐ不祥事 元メガバンク支店長が語る背景
金融業界の相次ぐ不祥事の背景についてです。
元メガバンク支店長の菅井さんによると、1つ目に考えられるのが『人材力の低下』です。
バブル崩壊前後の1990年度・東大卒業生の就職先企業ランキングでは、10位までに銀行が6行入っています。
金融業界の昔のイメージを街で聞きました。
メーカー勤務の50代男性
「僕らが就職したころは、周りにも自慢できたし、親にも喜んでもらえるような人気の就職先だった。信用の代名詞のような職業」
60代の主婦
「何十年も前は、銀行員は堅い仕事で、真面目で給料も安定していて、生活には困らないイメージがあった」
2024年に卒業した東大生の就職先企業です。
トップ10に経営コンサルタントの企業が5社入っている一方で、銀行は9位に1つだけです。
金融業業界の今のイメージについて聞きました。
20代大学生の男性
「就職先として魅力を感じない。転職が当たり前で安定を求めるような時代じゃない。そもそも銀行に入ったら、一生安心というわけでもない」
IT関係に務める20代男性
「激務の割には、収入もそれほどないというイメージ。就職先の選択肢として、考えたことはなかった」
元メガバンク支店長の菅井さんによると、
「低金利の時代が長く続いたことも影響して、就職先として銀行が選ばれなくなっている。優秀な人材確保のハードルが高くなっている」ということです。
金融業界で不祥事が続く背景2つ目は、『コンプライアンス意識の低下』です。
菅井さんです。
「銀行業界は、これまで新卒一括採用で、様々な部署を経験させて、人材育成をしてきた。入行後に不正を行うと大変なことになると、これでもかというくらい叩き込んで、銀行員らしくなる」
具体的にどういうことでしょうか。
菅井さんが『行員魂』を叩き込まれたエピソードです。
上司に、引き出しやロッカーの抜き打ちチェックをされる習慣がありました。
菅井さんは、自分のロッカーに新聞を無造作に置いていました。
すると、上司がロッカーを見て、
「銀行員たる者、きちんと整理しなさい!」
「(整理整頓ができていないと)お客様の大事な書類やお金をなくす要因になる!」
と、大叱責を受けました。
さらに、菅井さんが若手の頃、金庫は2人で開けないといけないルールでしたが、もう1人が捕まらず、1人で開けようとしました。
その時、支店長に見つかり、
「どうしてルールを守れないんだ!」
と、大叱責を受けました。
その後、朝礼のとき、
「菅井が金庫を1人で開けようとした。とんでもない!」
「ルール違反は絶対に許さない!」
と、約40人の行員の前で叱られました。
業務として、●外為担当が貸金庫のカギを数えたり、●現金検査を外回りがやったり●外回りのチェックを預金係がやったり、
チェックし合う習慣を叩き込まれた、ということです。
菅井さんです。
「業務の効率化で、業務の一部を省略や簡略化したり、外注したりするようになったことで、銀行のルールを学ぶ機会が失われた結果、コンプライアンス意識の低下につながっている可能性がある」
■銀行業務の変化で『即戦力』採用の必要性も
銀行の業務も変わってきています。
昔と比べて減ってきているというのが、●対面で送金や引き出し手続きなどを行う窓口業務、●顧客の自宅を訪問するなどの外回り営業、
ということです。
新たに加わった現在の銀行業務が、●インターネッバンキングなどのIT・デジタル領域、●金利上昇で重要性が増す法人向けの融資や、企業の合併や買収などのM&Aサポート、●富裕層向けの資産運用、
などで、広い分野で即戦力の人材を採用する必要性が高まっているということです。
メガバンク3社の中途採用数の状況をみると、近年、急激に増加し、2023年度は中途採用者が、全ての採用者の約43.3%となっています。
即戦力が必要とされています。
菅井さんです。
「転職が活発になり、生涯銀行に勤めたいという意識が薄まっている。従来、銀行に根付いていた『叩き上げ』や『生え抜き』といった、企業文化や風土を行員に根付かせるのは、より難しくなってきている」
(「羽鳥慎一モーニングショー」2024年12月24日放送分より)